レトロ横濱号乗車記

最初にも述べたとおりですが、レトロ横濱号は横浜〜横須賀間を1号〜4号として2往復します。指定券は1〜4号とも手に入れられる状態だったのですが、時間的な割り振りも考えて、1号、4号を撮影し、2号、3号に乗車することにしました。その為後続の普通列車でまずは横須賀へと移動。車両はE217系でした。この移動の間にも沿線には多くのカメラが林立し、(正確にはカメラを立てる三脚ですがね)如何にこの列車が多くの人の興味を引いているのかを思わせられます。事実、横須賀線への旧型客車の入線はおそらく営業運転終了時以来でしょうし、ましてや都心部からこれだけ近くで旧型客車に乗れる機会は相当珍しいものでしょう。たまたま撮影中に話のはずんだ人と一緒に20分ほどで横須賀まで到着しました。以下に編成表を示しておきます。
↑横浜
EF65-501
スハフ42-2173
オハ47-2266
スハフ32-2357(製造は戦前)
オハニ36-11(元荷物車)
オハ47-2246
オハ47-2261
スハフ42-2234
EF64-1001
↓横須賀
横須賀に到着後は発車までまだしばらく時間があったので、とりあえず駅構内で車体の写真を撮ることにします。
途中の駅撮りがこれだけの激パだったので横須賀駅もやはり相当の人出で、ホームから機関車の正面を撮るアングルの辺りは相当の混雑だったように思います。なのでとりあえずカマなどの撮影は置いといて、機関車のネームプレートや車内の様子、雰囲気などを中心に撮影してみることにしました。

こちらは横須賀方を向いていたEF64-1001号機。車体が旧客と同じセピア色に染まっていて綺麗です。

そして望遠レンズを用いてヘッドマークを撮影します。東海道線のときはダークグリーンを基調としたマークだったのですが今回は横須賀線での運行ということもあって、濃紺色のヘッドマークが装着されていました。個人的にはブルトレなど他の多くの客車の色に通じるこちらの色の方が好きなのですがね。

レトロ調の客車に合わせて、サボも少しばかり趣向が凝らしてあるようです。今からこの列車に乗るのか…、と思いつつ眺めると、感慨もまたひとしお。

まだ客扱いは始まっていませんでしたが、たまたま空いていた窓があったのでそこから覘き見るようなアングルで撮影。いかにも旧時代を思わせるシックな雰囲気が堪りません。

で、おそらく今回の運行の為に特注したのであろう、「横浜⇔横須賀」のサボ。こういう辺りにもちゃんと気を配ってくれていることには頭が下がります。

こちらは4号車の旧荷物車の改造車オハニ36-11の「荷物用」のスペースです。このようにガランどうになっていますが、車内販売の方々がワゴンを集積する場所として機能していましたし、運行中は概ね一般に開放されていたので、写真を撮ったり、実際に中の様子を色々と眺めている人も多くみられました。

横須賀→横浜(12:15→13:02) レトロ横濱2号

発車10分ほど前になって漸く客扱いが開始しました。ところでこの編成、旧型客車ということもあり、ドア開閉はすべて人力で行う必要があります。その為客扱い用のドアには最低1人が少なくとも常に配備されていなくてはならないのですが、この条件を利用してこの乗務員たちが混乱や強行乗車を防ぐための検札を行っていました。指定券を見せて車内へと入ります。

同じようなボックス席を別のアングルから撮影します。

こちらは車内全体の様子。クリーム色に塗られた内装と、扇風機や白熱灯の並んだ天井も魅力的です。

座席のプレートを近接撮影。ちなみにこの時乗った席番は6号車17番のA席でした。(進行方向右手側のボックスの、逆向き窓側です)

そして、ドア横にあるお決まりの「指定席」のサボです。背景に車内をぼかして入れてみました。
こうしてあちこち撮影している間に発車時刻が近付いてきたので自分の席に戻ります。車内は流石に殆ど満席で、客層もツアーパックのお陰か、どちらかと言えば家族連れなどの一般の方々が多かったように思います。こうして発車を告げる高らかな笛の後、ドアを閉める"ガチャン"という乾いた音がしたのち、EF65-501牽引の、「レトロ横濱2号」は客車列車特有の軽い衝撃とともに発車しました。

普段はE217とE231の独壇場となっているこの横須賀線ですが、旧型客車で乗車してみるとまたぜんぜん雰囲気が違って見えます。しかも天気が良くて気候も丁度いい時期ともあり、窓を開けている人も多数居ました。(先ほどの1号の写真を見てもそうなんですが)向かいに座っていた人も窓を開けていたので自分もその恩恵に与り、外からの涼しい風を楽しみます。(尤も、進行方向反対側の席のほうが直接風を浴びることなく景色を楽しむことが出来るのでそれはそれでいいのですが)撮影者はやはり相当な数が見られ、沿線の注目度の高さを窺い知る事が出来ます。
発車後暫くして、車内検札と同時に「大船車掌区」の印を記念に押してもらえる(というか車掌印を押すのはもともと車内改札が済んだか否かを示すための業務作業であり記念にするものではない気がするのですが)サービスが入り、その後に地域の少年団による記念乗車証の配布、また記念グッズの販売が続々とやってきました。自分は何も買わなかったのですが、機関車先頭のヘッドマークを模したプレートが結構人気でした。(このとき東海道線Ver.と横須賀線Ver.が販売されていたのですが、明らかに東海道線のほうが売れていたように思います)
逗子では多少の停車時間の間に近所の自治会による和太鼓の演奏などがみられました。やはりこういう日付限定の臨時列車と言うのは多くの場合資金面でも地元のサポートが必要となる訳で、その分地元の歓迎ムードもひときわ高まっているように思えました。
途中鎌倉では多少の乗り降りがあり、必ずしも全区間乗るばかりの人だけではないのだな、と、(まあおそらくは指定券の発券都合でしょうが)ちょっと意外な感じがしました。
大船からは東海道線としばし併走した後、戸塚で横須賀線から東海道線の線路へと転線します。通常、横須賀線湘南新宿ラインの列車と直通運転を行っている関係で、同じポイントにて東海道線からの湘南新宿ライン直通列車が東海道線横須賀線へと転線することはよくあるのですが、旅客列車がここを逆に横須賀線東海道線へと転線することは殆どなく、そのためか駅のホームにはカメラを構えた人が何人かいました。・・・が、直前に発車した東海道線の普通とどうやら被ってしまったようでした。それでもその場に居た人の多くが(せめてもという気持ちの表れか)編成に向けて精一杯手を振っていた姿は印象的でした。
戸塚を過ぎると行きの乗車ももう残りわずか。比較的列車密度が高く特急列車も多々通過する線ですから最後の一踏ん張りとばかりに速度を一気に上げます。80〜90km/hはあったでしょうか。そうして旧客の揺れを楽しみながら、オルゴールのチャイムがなりいよいよ終点の横浜です。ここにも大勢カメラを構えた人達が居るのが見えました。機関車の減速を体で感じながら、ゆっくりと終点横浜に定刻どおりの到着です。

横浜→横須賀(13:33→14:37) レトロ横浜3号

さて、旧型客車を一目見ようと大勢の出迎えの観衆の中で横浜駅にて下車します。とりあえず駅撮りではあるものの、何か写真を撮っておこうと思い取り合えず向かいの6番ホームへ。ところでレトロ横濱号、横浜駅で折り返しを行うときは転線の都合もあってか、2面4線の構造をもつ横浜駅東海道線ホームの東京行き本線側(7番線)に入線し、その間はこのホームを利用する通常の列車は全て待避線(8番線)側へと入線する、というこの日限りの特別な運用をとっていました。おそらくは私を含め多くの人が押しかける中で安全を確保することが主目的なんでしょうが、撮り鉄にとっても編成撮りが向かいのホームからきちんとできて嬉しい限りです。また、向かいの小田原方面行きの列車も待避線側(5番線)に入線するという措置がとられ、こちらでも進入列車を気にせずに撮影に集中できるというサービスもありました。(まあおそらくは警備とか管理とかの都合を配慮した措置なのでしょうけども)

という訳で比較的人の少なかった東京よりから望遠レンズを使って一枚。じっくりと構図を構えることが出来ました。他にも何枚か撮影したのですが、あまりいい写真がなかったのでここでの撮影記録はこの一枚とします。
さて、この後は折角なので旧型客車の中で何か食べようということにし、駅弁ぐらい置いてないかなぁと思いつつ改札内売店を一通り眺めてみましたが当然同じようなことを考える人は多いわけで軒並み売り切れ。さすがにコンビ二弁当だと風情がなさ過ぎるので、たまたま出店のようにして売っていた万世のカツサンドを購入。車中でこちらを戴くことにします。
ホームに上がると既に客扱いは開始していたので、指定券を見せて車内に入ります。今回は大船までの短い乗車区間ながら、4号車のオハニの指定券が手に入ったのでこちらに乗車です。

座席の写真です。シートモケットは同じですが、ニスを塗った木の色がほぼ原色のまま残されていて、年季の古さを感じさせてくれます。

こちらはその天井の様子。白熱灯のスタイルも他の車両とは違います。明るいときにはそれほど分からないのですが、トンネルの中に入るとまた全然雰囲気が変わって面白いのですが、それについては後述します。

こちらは洗面所の様子。やはり年代の差があってか、水周り関係の機器は全て使用停止にはなっていましたが、それでも明かりだけともして往時の雰囲気を残してくれているのは有難いです。

そして、お決まりの席番プレート。今回は通路側のC席の乗車です。ちなみに荷物スペースが車両の約半分を占めているためにこの席が車両の一番端の座席となっていました。

乗車して暫くして、間もなく発車です、との車内放送があり、その後にドアが閉まって今度は発車です。EF64-1001牽引で、JR型のステンレス車とは違って徐ろにゆっくりと加速していきます。先程も述べた通りに、この列車、東京行きの本線ホームに停車していたので、駅のすぐ近くにあるダブルクロッシングポイントを渡って小田原方面行の線路へと転線します。さて、こちらの4号車、先に述べたとおり元荷物車ともあって、作りが非常に古風になっており同じ旧型客車の中でも一際レトロな感覚を醸し出してくれています。傍らを走る横須賀線を眺めながら、先程買ったカツサンドをのんびりと広げてくつろぎます。特別変わったことのない如何にも大都市近郊地区らしい住宅地の広がりも、旧型客車の窓というバイアスを通して眺めるとまた随分と違って見え、新鮮な感じです。やはり先程と同様相当数のカメラがこの列車を目当てに構えられており、改めてこの臨時列車の人気の高さを実感しました。
ところで私が4号車に乗車した横浜〜大船間では殆どトンネル区間はないのですが、只一つ、それも短いものですが横須賀線東戸塚駅の横浜寄りにトンネルがあります。事前に色々調べていたこともあり、このトンネル内では一際車内が幻想的な雰囲気に包まれると聞いていたのですが、実際入ってみるとやはり、思わず息を呑んでしまうような幻想的な空間が広がり、まるで明治か昭和初期の時代にまでタイムスリップしたかのような不思議な感覚に包まれました。

こちらは揺れの少ない大船駅停車中に撮影したものですが現在走っている列車の中では唯一、ということかも知れないいい経験が出来ました。その後、暫くして戸塚を通過です。やはり先程の2号と同様ここで横須賀線へと転線です。これもまた、めったにない経験かもしれません。そうして暫く走った後、徐々に速度を落としつつ、ゆったりとしたペースで大船駅に到着しました。
大船駅の到着時刻は13:51、発車は14:10と20分の停車時間があります。このため、大半の人は一旦席を離れて、撮影やホームでの休息するなど思い思いの形で寛いでいました。私はここで一旦席が変わるので、取りあえず次に乗車する3号車の座席へと移動します。ラッキーなことに、今度は進行方向の窓側の席でした。
一旦荷物をおいて、ホームに降りていろいろと撮影してもよかったのですが、多くの人が下車したおかげで空席が多く発生していたのでその撮影にでも行こうと思い、車内を巡ることにします。

こちらは4号車の車内。木の温もりを残した車内のニス塗りの雰囲気が素敵です。

こちらは3号車の車内。おそらく私の座っていた座席だったと思います。4.5号車を除く、「一般の」客車の内装は概ねこれがベースとなっていました。この灰白色のシート周りと、青いシートモケットの取り合わせも、どこか海とそれを囲む防波堤のイメージと重なりあうような気がして個人的には結構好きです。

荷物車内に移動します。長時間停車なので手ぶれを心配せずに撮影できるのが魅力です。同じように撮影に来ていた方も多かったので、適当に譲り合いつつの撮影となりました。灰緑色の車内塗装と、どこか懐かしい形の電球との取り合わせです。

同じく同車内から。天井はこんな感じになっていました。

戦前製造の5号車の車内へとちょっとお邪魔して撮影。この車両の外見で特徴的なところは車輛強度の都合からか窓枠が一座席当たり一本入っていて、窓の数がほかの車両に比べて随分多く見えるところでしょう。(他の車両は1ボックス当たりに一つの窓)

3号車の天井を撮影。白塗りも丁寧に施されており、全般的によく整備が施されているように見え、この編成の所属である高崎支社が今や数少なくなった旧型客車を大事にしようとしていることが窺えてちょっと嬉しい気持ちになりました。
そうこうしているうちに発車時刻が近付いてきたので自分の座席に戻ります。最初に移動したときには誰も座っていなかったのですがこの時点ではボックスは満員になっていました。通路側の人に道を空けてもらい、自分の座席に座ります。
かくして列車は大船駅を定刻に発車。窓を開けつつ、残りわずかとなった旧型客車への乗車を楽しみます。沿線では相も変わらず大勢のカメラが構えていました。先程1号を撮影した北鎌倉駅でもたくさんカメラの砲列を見たのですが、この時横に座っていた、おそらく中学生ぐらいであろう少年が北鎌倉駅通過の動画を撮らせて欲しいと言ってきたのでちょっと場所を開けてあげました。まあそういう趣味の一つなのかなぁぐらいに思ったのですが、よくよく考えてみると、朝夕のライナーを除けば、普段は基本的に全列車が各駅停車の横須賀線で、昼間にこういう風に途中駅を通過する列車はかなり限定的で、だからこそ敢えて狙ったという訳なのか、と納得しました。
そうして大船駅の次の停車駅、鎌倉駅に到着します。たまたま停車した位置から見えるところにホームの電光掲示板があったので撮影。

この時はちょっと珍しいから・・・位の気持ちで撮影したのですが、他の駅では皆「臨時」などの表示に留まっているばかりで、このように「レトロ横濱」と正式名称が表示されているのは上下通じて私の知っている範囲ではこの駅だけでした。
ここでも若干の乗降客があってしばしの停車のもとに発車。さわやかな青空の下、初夏のさらっとした風の下で旧型客車はゆっくりと走っていきます。先ほどの少年は疲れたのかもう転寝をしていました。自分も結構朝早くから飛び回っていたので結構疲れており、少し意識が飛びそうになりましたが何とか我慢しつつ、残り少しとなった旧型客車への乗車を楽しむことにしました。
そして、14:37、定刻通りに列車は終点の横須賀駅に到着しました。